岩州の伊達郡に伝わるもので、人間をとって食べてたという大きなへび。山の中をあるいているひとの上から「てんころりん、てんころりん」という声をかけて、「なんだろう」と上を向かせ、大蛇の姿に気を失わせてから食べるというのがその手段でした。
あるとき、この山道で座頭さんが「てんころりん、てんころりん」という音をきいて、「てんころりんが出た、これでおれも死ぬのだ」と感じて、この世のなごりとばかり、三味線で「てんころりん、てんころりん」と弾き出したところ、ふしぎに思った向こうがさらに「てんころりん」と声をかけて、それがえんえんつづいたのですが、ついに蛇のほうが鳴き負けてしまい、そのまま死んでしまったと言います。
☆ 莱莉垣桜文 附註
この「てんころりん」の蛇は、もともと村に住んでいた娘だったのですが、親がつくった蛇のみそ漬けをこっそり全部食べてしまったあと、水がのみたくなったので水がめで水をゴクゴクのんでいると、その姿が大蛇になってしまったと言われていて、田沢湖の「たつこひめ」や八郎潟の「はちろう」、小三郎池の「こさぶろう」あるいは陸前の「おたつ」などと同質の導入部になっています。
和漢百魅缶│2012.01.10
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