蚊[か]の化けたもので、人間の血をもとめるために美しい女に化けて忍び寄って来たりします。弱点は蚊やりのけむり。
蚊なので、夏になるとあらわれて、季節が秋に入ると「国許にかえります」といって土地からすがたを消したりします。
鈴木富三郎[すずきとみさぶろう]という美男のもとへ蚊の化身が通って血を吸ってたのを知った近くの寺の僧侶が「あの女は蚊の化身じゃ、このままでは血の池地獄に引き込まれてしまうぞ」と助言。富三郎は蚊やりを焚いて手を切り、女房を迎えて身を固めましたが、ほんのすこしの蚊帳[かや]のほつれから忍び込んだ蚊に血を吸われて女房は死亡。その後、富三郎は出家したソウナ。
☆ 莱莉垣桜文 附註
山田野理夫の「血の池」(『日本妖怪集』第2集)に登場するもの。このはなしは昭和19年(1944)に購入してた『仙台双紙』という写本にあるものだという設定で書かれてます。文末には、このはなしの様子を描いた絵巻物を仙台にやって来た旅絵師が描いてるとも描写されてます。
和漢百魅缶│2022.07.03
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