立派な僧侶や行者のようなすがたの天狗ですが、ふつうに見ようとしてもすがたは見えないといいます。
むかし夕食を食べ終わると和州吉野郡の洞川から、生駒山まで茶のみ話をするために遊びに来てた「前鬼の和尚さん」と呼ばれる老僧が、生駒山の小坊主たちに「子供の天狗ではなくて、大人なすごい天狗を連れて来て、見せてくれ」とせがまれ、法会のときに連れてきたことがあったという。前鬼の和尚さんが「こうして見てみろ」と、自身の着物の袖[そで]をくぐらせて見せたところ、そのすがたが見えたソウナ。
☆ 莱莉垣桜文 附註
「こどものてんぐ」の翌年に前鬼の和尚さんが連れて来た天狗。特殊な見方でしかすがたが見えないというかたちは、天狗には限定されませんが、「そでごしに見る」というやり方はほかにも広く見ることが出来る例。
和漢百魅缶│2020.12.18
Design. Koorintei Hyousen 2020