ふしぎな術を自在につかうことの出来たという僧侶。松島に庵[いおり]を結んで住んでたようですが、正体が何者なのかも、ずっとそこに住んでたのかも何もわかりません。
源頼家[みなもとのよりいえ]のもとに仕えてた太輔房源性[たいふぼうげんしょう]という書道・算術や諸芸に秀でた者が、奥州に行ったついでに松島を見ていこうと立ち寄った際、宿を借りた庵のあるじがこの老僧だったといいます。
老僧が「吾れは天下第一の算師なり」と豪語したので、算術では天下随一と誇ってた源性が勝負をいどみました。しかし老僧が算木を源性のまわりに並べると、あたりはたちまち大海となり、源性はぽつんとひとつだけある岩の上に取り残されてしまいます。
ものすごい風と浪に襲われて、「ああ、もう死んだ……」と思うと、そこは朝のやわらかな光の差し込んでるモトの庵。老僧から「慢心いまは後悔ありや」と告げられました。源性は老僧に術の伝授を望みましたが、断られ、このはなしを頼家に語ったところ「そんなすごい老僧をなぜむりにでも連れ帰らなかった、おおかた狐に化かされたのであろう」といわれたソウナ。
☆ 莱莉垣桜文 附註
源性が慢心の鼻を叩かれたこのはなしは、『北條九代記』に書かれてます。
『北條九代記』巻2 曰
「頼家卿聞給ひ「その僧を伴[ともなひ]来らざること越度[おつど]なれ。何条狐に妖[ばか]されたるらん」と さして奇特の御感もなし」
和漢百魅缶│2020.11.28
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