いしゃのゆうれい 医者の幽霊

いしゃのゆうれい(医者の幽霊)

むかし、禽・獣・鱗・介・虫とあらゆる生き物の薬効を試験してその知識を書物にして世にひろめようとしていたとても賢い医者がいましたが、あるとき、その弟子の医者のひとりが頓死。しばらくするとその弟子の医者の幽霊が出現して「吾が師、幽界では活物たちが師の書ひとたび世に出れば、皆がその薬効目当てに有情の物の多くが捕り殺され尽すであろうと禽獣などが言っており、もしかかることがあれば師にわざわいをなさんとも語っております、諸人に殺生をさせぬため、書を出すのは止めたまえ」と告げて消えます。

それを聴いた賢い医者は、生き物の薬効をおもに記していたいままでの草稿を焼き捨てて、草木の薬効をおもに記した書を改めて世に出したソウナ。

☆ 莱莉垣桜文 附註
『奇談雑史』などに見られる説話にみえるもの。「幽界」という呼び方は原書にあるもの。

和漢百魅缶│2015.10.06
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