上総の長柄郡につたわるもの。むかしここに建っていて坊の数が100もあった道鏡寺というお寺に、いつもいつもごはんの時間になるとたべものをおくれと100坊中をまわってあるく変な犬がいたのですが、これに困った僧侶たちが鐘を合図に一斉にごはんを食べることにしたところ、他の坊へまわっても全坊たべものが無くなっていたので犬は怒って姿を消してしまいました。するとふしぎなことに寺のうしろの山が崩れて寺は一坊も残さずうずまってしまいました。
☆ 莱莉垣桜文 附註
『房総資料続篇』曰
「道鏡寺百坊あり狗ありて百坊三時の食を伺ひ一坊も残さず食ひ尽すあまり怪き故に百坊の主 申合せ鐘を撞て同時に食す 其時彼[かの]九十九坊食事に廻りけるが今一坊に至りける時 昼食終[おわり]ける故 食を与へず 時に彼[かの]狗忽[たちまち]所在を失す 其夜俄[にわか]に山中震動し山崩[やまくずれ]水湧[みずわき]百坊皆流れたりと」
このはなしから、「ひゃくぼうのいぬみたいだ」という言葉は「あっちこっちの家にごはん食べに行くひと」という意味で使われていました。
和漢百魅缶│2012.04.28
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