和州の吉野山にあったあるお寺の庵室に出たというたぬきのおばけで、夜中に戸にガスガス石ころをぶち当てて来たり、足音を鳴らしたりして、人をびっくりさせては面白がってたと言います。
☆ 莱莉垣桜文 附註
生生瑞馬『一閑人』曰
「愚仏和尚に逢ふて右の一条を委[くは]しく語りさるにても妖怪[ようくわい]の房中へは入[いる]ことのなかりし今に疑ひ止まずといふに和尚も笑を発っして無恙[つつがなき]ことを賀[が]し元来[もとより]空房一古狸有って時々人を弄[ろう]して驚怖[きょうふ]せしむるが般若経の一讖[しん]壁上に貼しにより足音扉を開[ひら]けども戸内に入る事なし」
ある夏、吉野山の愚仏和尚の庵室にあった空き部屋で性格が正反対な菅野静斎と水野蘆庵のふたりが勉強をしていた話に出て来るもので、蘆庵は夜あまり眠らない性格だったので妖怪にびっくりし、静斎は朝まで熟睡な性格だったために庵に雷が落ちて火事が発生したときも起きなくて髪がこげた、という対比展開に登場しています。
和漢百魅缶│2011.01.25
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