がんかいあじゃり 岩海阿闍梨

がんかいあじゃり(岩海阿闍梨)

地面の中に埋まって崇高な即身成仏となるはずだった行脚僧で、埋められる前にたくさんのひとびとと共にたまたま阿闍梨を拝みに来た初音[はつね]という御殿女中をひとめ見て「世にかかる美人もあるべきか」と心が乱れ、その霊がほととぎすのかたちの心火となって、彼女にとりつくようになってしまいます。

初音は岩海阿闍梨の念によってたびたび血を吐き苦しみますが、小鍛冶宗近の刀のちからによって阿闍梨は最終的に滅ぼされ、ばらばらの骨と化して一羽のほととぎすだけとなり空高く消えたソウナ。

☆ 莱莉垣桜文 附註
山東京伝『岩井櫛粂野仇討』に登場するもので、ほととぎすの心火は「がんばり入道ほととぎす」という言葉からの発想でつくられた趣向。「がんばり入道」は「岩海入定」の言い誤って伝わったものぢゃ、というこじつけがおかしみ。

山東京伝『岩井櫛粂野仇討』曰
「雪隠へ行きけるに又阿闍梨のすがた現はれて口よりほととぎすを吐き出しければ初音たちまち気絶して倒れ血を吐くこと前の如し七郎物音におどろきて起き来たりこのていを見て又かの名剣をぬきて斬り払ひければ阿闍梨の姿はそのまま消へ失せぬこれよりのち雪隠へ行くに岩海入定ほととぎすと三遍唱ふれば怪に遭はずと言ひ伝へしが又そののちに至りてがんばり入道ほととぎすと言ひ誤りけるとかや」

和漢百魅缶│2015.07.09
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