金魚の幽霊ちょうちん

  夏の宵、ふらり火を中に灯して持ち歩かれる郷土玩具「金魚の幽霊ちょうちん」は涼氛を呼ぶ妖界の風物詩のひとつである。この度、一目百貨店において大小種々の提灯を一堂に紹介する催事を同店の部長尻目畔月氏が企画してくれた事によつて、いままでこれを見知らなかつた地域の方々にも知られるに到つた。もとより児怪のもてあそびものであり、和紙でつくられた簡単な構造の工芸品であるが、風を腹中に取り入れて巧いぐあひに廻る様や、手に持ち縦横に揺らめかせる動きなどは一寸と面白く趣味のあるものである。この催事を機にその存在が内外の子供大供に認知され益々これが愛玩さるる事を願ふものである。
猿國大学弄物学博士 浅草覺風

金魚の幽霊ちょうちん 壁紙

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金魚の幽霊とは

  「金魚の幽霊ちょうちん」のもとになっているおばけは「金魚の幽霊」と呼ばれているもので、人間が害されたとき近くにいた金魚へ、その血などが吸われて、その死霊が金魚と合体したもので、金魚が突然ばらばらとすさまじい勢いで水と共に暴れ跳ねたり、恨みのある相手の近くにある水辺にいろいろと不気味な形の金魚の群れとなって現れたりする、というのが主な活躍で、金魚自体が人型に変貌してどうこうするという明確な展開は見られません。

  魚類を舞台上で動かすことは無塚しいと見え、歌舞伎などでは使われず、作品上では主に稗史、絵草紙の上でのみ見る事が出来ます。山東京伝はこの趣向を自作の絵草紙で二度つかっており、『梅花氷裂』では唐琴浦右衛門の妾「藻の花」(ものはな)、『磯馴松金糸腰蓑』では甲賀三郎の妾「萍」(うきくさ)が、前者は縛られたま絞め殺されて金魚槽(きんぎょぶね)に血を流し、後者は曲者に首を刎ね飛ばされてその血が金魚のもとにそそぐ、という展開で「金魚の幽霊」と化しています。

  藻の花が、自身を邪魔者にしてついには殺した桟(かけはし)を最後は金魚のように腫れ上がらせて、水しか飲めない奇病にしてしまうくだりがありますが、こちらは血を吸った金魚が仕掛けているというより、「金魚の幽霊」というより、「金魚憑き」といったほうがよろしい趣向です。

  また二世為永春水から『北雪美談時代鏡』を引き継いだ柳水亭種清は、この趣向を海水魚に移して、奥女中たちになぶり殺された糸遊(いとゆう)の血を鯛たちが吸って、それを指示した笹尾(ささお)に対して怪異をなす、というものを作っています。(該当場面に種清オショーは「鯛魚の怪奇」と書き付けています)

  一方、京伝の弟でもある山東京山は、『小桜姫風月奇観』で田原藤太秀郷の勁弓によって討たれた三上山の「大百足」から流れ出た血を飲んだが霊力を倍々増加させて自在に化けるちからを得た、という趣向をとっていて、前者の血を吸って後者が霊力を得るという図式から考えると、このような展開を持った稗史などから「金魚の幽霊」の趣向は発達していったのでしょう。
莱莉垣桜文

壁紙製作、活字採取 ■ 氷厘亭氷泉
金魚の幽霊ちょうちん原案 ■ 宗柳亭七狐
背景画像 ■ 歌川豊国(『磯馴松金糸腰蓑』 1814年)


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up 2010.07.14 -- © 2010 新・妖怪党 All rights reserved.